朝食後、チェックアウトを済ませて出発しようとすると、ロビーにいたターバンを巻いたおじさんが、たどたどしい日本語で「どこ行くんですか?コンノートプレイスだったら、タダでタクシー出しますよ。」と話しかけてきた。
コンノートプレイスとは、オフィスや中高級店の集まる、デリーの中心地だ。この日は、カズとの待ち合わせまで、コンノートプレイスをはじめ、ラール・キラーやチャンドニー・チョウク(バザール)といった所を色々と見て回ろうと思っていたので、丁度いい話だった。
しかし、結論からいうと、このタクシーに乗ってしまったことが大きな誤りだったのだ。もちろん、“タダ”という言葉に何の疑いも持たなかったわけではない。でも僕の注意は、“後で高額なタクシー料金を請求されるのではないか?”という方ばかりに向いてしまって、“タダで乗せる代わりに、悪徳旅行代理店に連れて行き、高額なツアーを組ませようと企んでいるではないか?”とは考えもしなかったのだ。
かくして僕は、悪徳旅行代理店に連れて来られた。もっとも、この時は「デリーを見て回りたいなら、まず観光局で地図をもらった方がいい。」と言われ、「たしかに地図があった方が便利だ。」と、まんまと騙されてやって来たのだが…。
今考えると、実に軽率だった。けれども相手だってプロ、“インド初めて来ましたオーラ”丸出しの日本人は絶好のカモであり、巧妙に近づいてくるのである。
ホテルのロビーにいたターバンおじさん、彼もグルだったわけだが、フツーにホテルの人と話をしていたから、てっきり彼も従業員で、親切にしてくれてんだなぁと思ってしまった。
それに連れて来られた旅行代理店のスタッフ、ちゃんとした身なりをしているし、(最初は)とても紳士的な対応をしてくれるから、怪しげな所ではないと安心しかけてしまった。
だが、しばらく話をしているうちに、どうも矛盾する点がいくつか出てきた。教えてもらった電話番号や表の看板がガイドブックと違う/人によって、現在地の地図で指す場所がバラバラ/政府観光局というわりには、何となく雰囲気が違うなど…。
「あっ、これはヤバイ!騙されてるかも(@@;)とにかく、外へ出よう。」と決め、そそくさと出口に向かうと、急に旅行代理店のスタッフが慌て始めた(カモが逃げてしまう…)。その様子を見て、僕は騙されていたことに確信を持ち、強引に振り切って外へ出た。僕の後ろで、今まであれだけ紳士的に対応してくれた人が“fu*k”と大きな声で罵っているのが聞こえた(苦笑)
さて、幸い何の被害もなく旅行代理店を抜け出せたはいいが、果たして連れて来られたこの場所はどこなんだろう??騙されかけたばかりだったから、一体誰に聞けばいいのか、誰の言うことを信用すればいいのか、よくわからなくなっていた。
すると、英国人を乗せたリキシャー※の運転手が話しかけてきた。
“Hello, friend!! Where're you going?”
「いゃいゃ、友達じゃないから。今ここで会ったばっかでしょ、オッサン」と心の中で突っ込んでみたが、話を聞くとコンノートプレイスに行くというので、西欧人も乗っているし大丈夫だろうと一緒に行くことにした。
コンノートプレイスに着いて英国人は降りたが、旅行代理店でゴタゴタしていたおかげで13時過ぎになっていたし、とても観光するような気分ではなかったため、僕はカズと待ち合わせしていた宿にほど近いニューデリー駅まで乗せてもらうことにした。
…すると、どうだろう!英国人が降りた途端、リキシャーの運転手は態度が横柄になり、日本人をなめきっている。そしてニューデリー駅に行けと言っているのに、例のごとく旅行代理店の前に止まっては「ここで話を聞いてみよう。」と言い、僕を中へ入れようとする(もしそれで不当な高額ツアーを組ませることができれば、運転手は紹介料でももらえるのだろう)。
それを何回繰り返したことか(;>_<;)その度に「ニューデリー駅に行けと言ってるんだ。じゃないと、金払わないぞ。」と言い続け、うんざりした。

ドッと疲れが出て、もはや動く気がしなくなった。メイン・バザール(右写真:ニューデリー駅から西に伸びる、安宿や商店、市場がひしめく通り)を少し見て回ったが、残りの時間はホテルにいた日本人バックパッカーの人達と話したりしていた。
18時、ついに相棒カズが現れた!カズは背は高いが、線が細く、なよっとしている。それ故、彼が何やらスカートのようなもの(ルンギーという民族衣装らしい)をはいて登場した時は、そっちの方向に走り出したのかと心配になった(笑)でも予定通りに無事会えて、正直安心した。
その後、夕飯を食べ、シゲタトラベルというところで翌日の飛行機のチケットを購入した。トレッキングをするシッキム州まで、まずは一気に移動してしまおうという寸法だ。
こうして、長い一日が終わった。結局、観光も何もできず仕舞いだったのだが、貴重な(?)経験ができた。
※インドの街中でよく見かける三輪車タクシー