Science

California Dreamin'
(11.12.15)
 目的の化合物を合成するため、ある文献を参考に反応を仕込んだ。文献に、

「...stirring at room temperature. 」 室温 で攪拌する。)

とあったので、素直に文献に従ったら、全然反応が進行しねぇ (>_<)

 おっかしいなぁと思いながら、文献を見返す。所属を見てみると、その論文は カリフォルニア の研究チームによって書かれたものだった。もしや…と思って、45度 で攪拌したら、ちゃんと反応した。この寒い季節とはいえ、実験室内はあったかいはずなんだけどな。。。

 「夢のカリフォルニア」で実験してみたい。

オッサン分子 吸引
(11.12.4)
 この季節、寒いからと窓を閉め切ったりしていると、空気が籠もる。部屋に入った瞬間に感じる色んなニオイ、何かイヤだ。

 人がニオイを感じる ということは、当然、人間の鼻にある受容体にニオイの素となる分子が結合したということである。はて、一体どれくらいのニオイ分子が鼻に入ってくるのだろう? 
(以下、高校化学レベルの計算をしますので、頭が痛くなりそう人は結論に飛んで下さい。) 
 
 人は1回の呼吸で、0.25 Lの空気を吸うそうだ。*1
 気体の状態方程式から、0.25 Lの空気に含まれる分子のモル数 n を求める。*2

 PV = nRT より、n = (PV)/(RT)
 n = (1 atm × 0.25 L)/(0.08206 L atm K-1 mol-1 × 298 K) = 0.010 mol

 1 mol あたり、6.02 × 1023 個(アボガドロ定数)の分子が含まれているので、1回の呼吸には、

 0.010 mol = 6.0 × 1021

の分子が含まれていることになる。

 さて、嗅覚が良い犬の鼻の感度は、0.1 ppb (parts per billion) と言われている。*3 つまり、犬は吸った空気の100億分の1 (1/1010) だけニオイ分子が含まれていれば、それを認識できる。人間の嗅覚の感度は犬の1万分の1以下。*4 従って、人間は吸った空気のうち 100万分の1 (1/106) 以上のニオイ分子が含まれていないと、ニオイを感知できない。

結論
 以上より、部屋に入って色んなニオイを感じた時、ボクはニオイ分子を

 6.0 × 1021 個 × 1/106 = 6 × 1015(6000兆個)

だけ吸ったことになる。つまり読者のあなたも、電車の中で隣に座ったオッサンの靴下のニオイを感じてしまった時、“すでに”あなたの鼻の中には6000兆個ものオッサン分子 が入ってしまったということだ (^_^;) うわっ。。。

 吸った空気量の100万分の1と考えれば極微量だけど、分子の数に直すと、それが如何に大きな数字になるかがわかる。身の回りの分子の数というのは膨大ですな。

 少し違った印象を与える例え話(根本的には上と同じ)として『クレオパトラのワイン』というエピソードもある。Googleしたらすぐに調べられると思うので、興味のある方は読んでみて下さい。


<追加情報>
 人間の鼻にある受容体の数は、数千万個(107 オーダー)だそうである。1015 オーダーのニオイ分子が入って来ないとニオイを検知できないということは、受容体とニオイ分子の結合定数は、そんなに大きくないということが予想される。


<参考> 計算に用いた式・値は下記ページを参考にしました。
*1) ダイキンホームページ
http://www.daikin.co.jp/naze/html/d_1.html

*2) Wikipedia(理想気体の状態方程式、気体定数 R

*3) 九大院 都甲・栗焼研
http://ultrabio.ed.kyushu-u.ac.jp/A9912/katudo/smelldog/smelldog.htm

*4) ビジュアル生理学
http://bunseiri.michikusa.jp/kyuukaku.htm

研究所ぶらり旅
(11.7.24)
 つくばというのは人工的に作られた街で、風情もくそもないが、大学や研究所(国立・民間問わず)が密集しているで、ほかの都市では体験できない貴重な経験もできる。

 その一つが、研究所の一般公開巡りというやつで、色々な施設内部を見ることができる。今年は地震の影響で開催時期がバラバラ(あるいは中止)になってしまっているが、例年なら循環バスのようなものも出て、科学週間を謳ってアピールしているらしいので、もし興味のある方は調べてみてください。JAXAの展示はボクもかなり興味があります。

 ボクの所属している研究所は、先日一般公開がありました。毎日通っているとはいえ、なかなか他のフロア・他の地区の研究者の方の話を聞く機会もありませんし、ここぞとばかりに見学に行ってきました。

(左)人造ダイヤモンドなどが作れる圧縮機。ここに炭素(スス)を置いて、高温高圧にすると、ダイヤモンドができるそうです。
(右)手前の入り口付近にサンプルと火薬を詰めて、5000 km/h の速度で、パイプ奥方の別のサンプルに衝突させる装置。

 後者の衝突実験装置。いったい、これを使ってどんな実験をしていると思いますか?説明してくれた研究者の方によると、最近

「地球の生命誕生が隕石衝突によるものではないか」

という仮説を立証するために、この装置が使われたそうです。すなわち、隕石に見立てた物体を、原始地球を再現した環境(アンモニア、二酸化炭素、窒素などのガス)に衝突させる。すると、その物体が衝突した衝撃(温度なのか、圧力なのかはよくわからない)で、なんとDNAを構成する アミノ酸 が生成していることがわかったとか。この成果は Nature誌に掲載されています。もちろん、日本人の研究チームです。なかなか面白い研究ですよね。

 以下、研究所ぶらり旅のついでにおまけ。

 研究所内の 理髪店 を発見!髪切ろっかなーと思ったが…

 うーむ、センスが感じられなかったので、さすがに止めました。。。

 テクノカット とかされたらイヤだし。
 続いて 実験ノート。新品と比べると、データ糊付けしたページが膨れ上がっているのがよくわかる。半分くらい使うと、重くなってくる。



 食堂にあるアイスクリーム自販機

なぜ謝っているのか、わからない。

風力使電
(11.7.7)
 節電、節電扇風機がバカ売れ らしい。色んな意味で、扇風機様々である。

 ところで「なぜ冷やされてもいない空気の風があたるだけで、人は涼しいと感じるのだろう?」

 みなさんは、この理由をちゃんと説明できますか?エアコンで空気を冷やすのとは違うので、不思議ですよね。。。かくいうボクもちゃんと説明できなかったので、調べてみました。

(参考)
 人間の体温は約36度で、身体の周りの空気はある厚みをもって、この体温によって温められています。つまり、気温よりも高い温度の空気層で覆われているのです。扇風機などで風を起こすことによって、この層はより薄く、そして身体表面の温度が低下する → 従って、涼しく感じるというわけです。

 「風が吹くことで、汗の蒸発を促進し、気化熱によって身体表面の温度が下がる」という仮説も考えられます。たしかに、強い風が吹き汗滴の表面積が大きくなることで、汗の蒸発を促進している可能性はあるでしょう。しかし、ほとんど汗をかかないであろう真冬でも、風が吹くと非常に寒く感じるーこれは、この仮説が主要因ではないことを意味します。先に述べた空気層の厚みが主要因といえるでしょう。

 このように考えると、扇風機は、気温が36度を超えてしまった日には 無意味、というかむしろ体温で “冷やされた” 空気層を薄くし、身体表面の温度を上げてしまうことになるでしょう。

 気温が体温を超えないことを祈りましょう。山に行くのが一番です (^O^) 扇風機すら不要ですぞ。

しょうがない
(11.3.19)
 もう春かと思いきや、寒い日が続いている。こんな寒さの厳しい日には、温かい飲み物や熱々のおでんに限る。これらを口にすると、すぐに手足の先までポカポカ と温まる。でも、これって何だか不思議である。

「なぜ温かい物を飲食するだけで、身体の末端が温まるのだろうか?」

 まさか、口にした温かい物が直接的に手足の末端まで行くわけがない。だとすると、何かを介して、この温かい物の熱エネルギーが伝わっているわけだ。考えられる仮説は以下の二つ。

(1)胃の周りを流れていた血液が温められる → 温められた血液が、手足の先まで循環
(2)熱エネルギーで心臓の血液ポンプの力増強 → 血の巡りが良くなる → 血液が身体の隅々まで届くようになり、外的要因で冷やされた手足の先が体温近くまで温められる。

 仮に(2)が要因だとすると、心臓の血液ポンプの性能さえ上げてやればいいことになる。そこで、熱エネルギーを与えることなく、冷え性に効くとされる生姜や唐辛子を食べてみた。

 “室温”の生姜や唐辛子効果なし

 嗚呼、身体を張った実験だったのに。。。この結果から、(1)が主要因であるか、(2)が要因だとしても「即効性があるのは、熱エネルギーを与えること」だということがわかる。だから、みんな生ではなくて、生姜唐辛子入りスープ を飲むわけだね。逆に言うと、別にそれが生姜湯などではなく、ただの白湯 でも同じ効果が得られるっちゅうことになるな。

 では、主要因は(1)なのか(2)なのか、はたまたそれ以外か?正直まだボクの中で結論は出ていないので、誰か詳しい方がおられましたら、是非教えてください m(_ _)m

超軟水
(11.3.3)
 研究室でスチーム式加湿器を使用しているが、フル稼働させていることもあり、すぐに加湿器本体内に白い石のようなものが溜まってしまっていた。おそらく、水道水に含まれるカルシウム等のミネラル分が、濃縮されて(炭酸カルシウム等として)析出したためだと思われる。
 しばらく放置していると取れにくくなってくるし、かといって頻繁に掃除するのも面倒 (~_~メ)

 そこで、水道水の代わりに イオン交換水 を使ってみた。イオン交換水とは、フィルターを通して水道水中のミネラル分を取り除いた水である。人々の知的好奇心を満たす意義ある実験に使用する目的で、研究室にある装置を使わせていただいた(そんなにお金のかかるものではない)。因みに、研究室にはもっと純度の高い MilliQ水や、蒸留水があるが、そんなものは使っていない。

  結果:白い析出なし

 いやぁ、当然といえば当然だけど、あの実験用のイオン交換フィルターは、ちゃんと機能していたんだなぁ (^。^)

 もし加湿器の使用に際し同じ悩みをお持ちで、ご家庭で試される場合は浄水器を使用してみたらいかがでしょうか。

長ーいお付き合い@京都
(11.2.12)
 「研究を如何に進めていくか」(30年くらいの長いスパンでね)ということに関して、大きく二種類の考え方があるようだ。昨日、高校の同期(19さんみのわくん)と話していて、そういうことを意識した。ボクのイメージは下図のような感じ。

 
(a)解決すべき新しい課題を、ありとあらゆる角度から解明し、体系化する。
(b)新しい技術・コンセプトを基盤に、様々な分野の課題に取り組み、一般化する。

 ある意味 (a) の方が目的は明快であるが、各人の研究背景や考え方があるので、どちらの方が優れているということは一概にはいえないと思う。

なんかオモロい、新しいことを

という気持ちは、どちらも同じはずだ。自分が長いスパンで見て何をやりたいのか、今どこにいるのか、その立ち位置を見失わないようにしたい。

 こんなことを考えさせてくれる19さんみのわくん。いつもアホな飲み会だけど、刺激があっていい。良き友であり、良きライバルである。伊達に長いこと付き合いがあるわけじゃない。

ユリーカ!
(10.10.6)
 一応、化学を専攻する人間として本年のノーベル化学賞の話題を。すでに各メディアが解説記事を載せているので、少しだけ現場の声とプラスαの情報を。

 受賞した鈴木先生は「予期せぬ受賞でビックリした。」と謙遜しているそうだが、ず〜っと前からノーベル賞候補に挙げられているし、多少なりとも有機合成をやったことのある人で、鈴木カップリング を知らない人はいない。日本だけではなく世界のどこへいっても、である。ボクがフランスにいた時も、学会でも論文の中でも当たり前のように Suzuki Coupling という名前が出てくる(場合によっては、当たり前すぎて名前すら出てこない)ので、同じ日本人として誇らしく感じていた。鈴木カップリングほどではないが、根岸カップリングも然り。

 ノーベル財団のホームページで、リンクを辿っていくと、化学賞のScientific Background(Advanced Information内)というpdfを見ることができる。そこでは受賞者の選考理由やテーマ背景、関連研究について詳細に述べられている(著者は有名化学雑誌の編集長でもあるスウェーデン人化学者)。それを読んで思うのは、まず緻密で慎重な選考が行われたのであろうということ。今回のテーマ周辺では、重要な業績を残した研究者が数多くいるということで、色々な人の名前が候補として挙がっていた。実際、本文中では候補に挙がっていたほぼ全ての先生方の名前が文献と共に挙げられており、その中から三人の受賞者が選ばれた根拠がちゃんと記されている。

 特筆しておきたいのは、重要な業績を残した研究者として名前が挙げられた人の半分以上が日本人化学者だということだ。だからこそ尚更、Heck先生が受賞されるなら溝呂木先生も(残念ながら故人なので、無理だが)とか、様々な意見が飛び交うことだろう。悔しい思いをする先生は多いだろうが、今回の受賞者(特に鈴木先生)を差し置いて我こそは!と名乗り出る人はいなかろう。

  …じゃあ、アツローの研究は何の役に立つの?

 こういうことを聞かれるわけである。しかし実は、この様な疑問は、ほとんどの科学者が 常日頃から 自問自答している(得てして悲しい気分に陥るのだが)。口で何と言おうと、自身の研究が花開く日が、そして人類の英知に貢献できる日が来ることを研究者は願っているのだから。その中で偉大な業績を築き名を残す者あり、はたまた途中で消えゆく者もあり。ただ、いくら科学技術の進歩に貢献した業績でも、(ノーベル賞を取らない限り)社会でどのように役に立っているのか認知されぬままの研究も少なくない。

 近年、しばしば科学者は 社会への説明責任 を求められる。それに応えられるよう、我々も精一杯の努力をしましょう。

  説明を受ける側の準備はオッケーですか?

キリギリスなアリ
(10.2.24)
 アリの中には熱心にはたらくアリもいれば、まぁまぁはたらくアリ、全然はたらかないアリもいる。その割合は、大体2:6:2くらいだそうだ。

『では、一群からサボりがちな2割の怠けアリを除くとどうなるか?』

そんな実験が報告されていて、結果は

『今まではたらいていたアリの2割がサボりだす!』

そうだ(笑)結局、同じ割合ではたらくアリとはたらかないアリが出てくるというのだ。

 同様の結果が ハチ でも報告されているそうで、たいへん興味深い。こうなると、極端な例として

「人間社会ではどうなんだろう…」

と思いを巡らしてしまう。ボクが思うに、人間社会の仕事量は群の規模に応じて一義的に定まるものというものではないから、事はそう単純ではないと考える。だから、仮にある会社で、社員の2割をリストラしたからといって、今までガンガンに働いていた人がサボり出すとは思えない。じゃあ、2割の人達はリストラされてしかるべきなのかと言われると、よくわからない。…これ以上の議論は、どツボにはまりそうなので止めておこう (^_^;)

 でもアリの社会でも人間社会でも、現実的には(少なくともある程度の大きさを持つ母集団の中では)色々な立場の人間(ついでに色々な性格の人間)が共存しているわけだ。だから、自分と異なる立場の人をすぐリストラしようと考える、あるいは「アイツが頑張ってくれるからいいゃ」なんて妥協するのではなく、自分の立場をわきまえた上で、相手のことも認められるような存在でありたいと思う。

ゴールドよりコットン
(10.2.7)
 もし飯を食いながら、ボクのホームページを見てる人がいたら困るが(いないか…)、便座の話

 うちの部屋のトイレは旧式のもので、ウォシュレットや便座ヒーターがついていない。だから、この時期そのまま便座に腰掛けると、飛び上がるくらい 冷たい。そこで、百均で 便座カバー を購入したところ、あの冷たさ は一気に解消された。めでたし、めでたし。

 しかし、ふと気付いたが 便座カバー をつけたからといって、便座表面の温度が上がっているわけじゃない。同じ温度のところに座っているはずなのに、なぜこんなに体感温度に差があるのだろうか…?不思議に思いませんか?

 まぁたぶん答えは単純で、熱伝導率 の違いによるものだと思われます。つまり便座として使われる陶器の方が綿などの繊維よりも熱伝導率が高いので、人間の体温がすぐに奪われてしまう。逆にいうと、便座カバーの方が陶器よりも熱伝導率が低いので、人間の体温が奪われにくい。繊維質であることによって、おしりとの 接触面積が小さい というのも、別の理由として考えられるかもしれません。

 そんなわけで、今現在あるいは将来お金持ちになる人へ。間違っても、ダイヤモンド の便座を作らないようにしてください。

金の熱伝導率は 320 W m-1 K-1、ダイヤモンドに至っては 1000 W m-1 K-1
(ちなみに羊毛は0.05 W m-1 K-1、鉄でさえ84 W m-1 K-1

を越えるらしいですから!便座とおしりの温度が均一になるまで、あなたの蓄えた熱が急速に奪われます。


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Last modified 11.12.15